自分の体験を詳しく話す前に、抜毛症という症状について正しく認識したいと思います。
私がはじめて正式な文献を見つけたのは、留学先のアメリカでの心理学の授業でのことでした。
精神障害として登録されていること、教科書にかなりのページが割かれていることにびっくりして、恐る恐る読みました。
ちゃんと知りたいような気もするけど、現実を突きつけられるのが怖かった。
緊張しながら辞書を引きました。
その教科書は「DSM-5」というもので、 DSMは、アメリカ精神医学会が出版している精神障害の診断・統計マニュアルのことです。
精神疾患の診断基準・診断分類で、正式にはは「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」といい、その頭文字を略してDSMと呼びます。
アメリカで作られたものですが国際的に普及していて、日本でも使われています。
https://snabi.jp/article/127
必要な人に情報が届くように、その内容をでくるだけ詳しく書いてみたいと思います。
以下はすべてDSM-5 から抜粋した内容の大まかな訳です。
抜毛症について –Trichotillomania–
大きな特徴 Major Features
抜毛症とは、髪を引っ張る障害として知られている。 病名が示すとおり、その明確な症状の特徴は、自身の毛を引き抜いてしまうことである。ここで重要なのは、抜毛には痛みを伴わないということである。それから抜毛症の患者のうち多くは、爪を噛むなど、他の身体的・局所的な癖を持っている。 (American Psychiatric Association 2013, 251-252)
抜毛は、毛の生えている場所ならどこにでも起こり得る。頭皮、眉毛、まつげの場合がもっとも多く、逆に脇毛、陰部、肛門周辺は珍しい。この症状が現れる場所は時と共に移動する場合がある。 (American Psychiatric Association 2013, 251)
患者には2つのタイプがある。ひとつは一日の間に頻繁に、短い抜毛の時間を持つタイプ、もう一つは前者ほど頻繁ではないが1回の抜毛の時間が長いタイプがある。この場合、1回は数時間に渡ることもああり、抜毛症自体は数ヶ月から数年に及ぶことがある。
その結果として毛髪の大幅な減少がみられる。しかし多くの場合、毛を失ったことが一瞥してわかるわけではない。なぜなら通常患者は、例えば均等に全体から抜くなど、広い範囲から抜いているからである。もしくは、化粧やスカーフ、帽子、髪型などを試行錯誤して隠そうとしているからである。 (American Psychiatric Association 2013, 251)
第二の特徴は、患者は自分で抜毛をやめよう、せめて抜く本数を少なくしようと努力していることである。(American Psychiatric Association 2013, 252)
第三の特徴は、抜毛症が現実社会において深刻なトラブル(患者が経験するネガティブな影響)や、人間関係・職業における能力の重大な損失につながることである。 例えば、自分のコントロールを失ったように感じたり、他人の前で恥ずかしく感じたり、また自分自身に対する恥ずかしさ(罪の意識のような)を感じることである。
症状がひどく悪化している場合には、患者は通勤・通学や人前にでる機会を避ける。そのためその患者の交友関係、職業、勉学、更には娯楽の分野においても、人生 でさらにネガティブな影響が出る場合がある。(American Psychiatric Association 2013, 252)
その他の特徴 Minor Features
髪を抜くという行動には、髪に関係する別の行動や個人的な儀式、ルールが付随するケースがある。それによって患者は自分なりの髪の抜き方を確立する。
例:DSM-5からの抜粋
・特殊な色や手触りの毛を選ぶ
・毛根が皮膚から抜けるように毛を引き抜く
・抜いた後の毛を目視で確認する
・抜いた毛を部分的/全体的に手で弄ぶ
より具体的には、指の間で毛を転がす、歯に挟んで引っ張る、細かく噛み切る、飲み込むなどがある。(American Psychiatric Association 2013, 252)
感情 Emotion
患者には、抜毛行為の前後で様々な感情が深く関係している。
緊張感の増大は、抜毛の優先順位を上げうる。不安になったり、退屈を感じたりすることも抜毛のきっかけになりうる。そして毛を抜いたあとには、満足感、快楽、安心感を得る患者もいる。(American Psychiatric Association 2013, 252)
意識 Awareness
抜毛中にどの程度自覚があるかについては、患者個人によって異なる。抜毛中にはっきりと自覚している人々もおり、彼らは前後の感情の変化(抜毛前の緊張感、後の安心感など)にも気がついている。
一方でまったく自覚がなく自動的に抜毛している人々もいる。一般的には、患者は両方の自覚タイプが混ざっている。(American Psychiatric Association 2013, 252)
機密性 Confidentiality
抜毛症において、秘密にするということは鍵となる概念だ。なぜなら患者は、とても親しい家族を除き、誰かがいる部屋では毛を抜くことはないからだ。そして患者は抜毛症であることを他人に対して否定する。 (American Psychiatric Association 2013, 252)
人口とその特有点 Population and Their Peculiarity
思春期以降の成人人口のうち、1-2%ほどの人が抜毛症であると考えられる。性別による比率は、10:1(女:男)で、明らかに女性のほうが影響を強く受けている。この事実は、文化的規範での男女の外見の扱われ方の違いによるかもしれない。
上記は現段階では仮定にすぎないが、説得力がある。なぜなら一般的に言って、思春期は自分の性を自覚し、異性を意識し、どう思われているかを気にし始める時期だからである。
さらにDSM-5は、抜毛症の徴候は思春期の始めか思春期中に現れることを証明している。(American Psychiatric Association 2013, 252-253)