日常で感じたこと

自分のための文章

自分のためにこの文章を書く。
パートナーに直接伝えても良かった。誰かに愚痴るのでもTwitterにつぶやくのでも良かった。
それをせずにブログを選んだのは、どんなに言葉を尽くして誰かに伝えたとしても、私の意図したことが純度100%で伝わることがないと知っているから。

相手の経験や感情や想像力がそこには介在していて、私の話は私の口を出た瞬間に私だけのものではなくなる。

私はこの文章を書くことで自分の記憶と感情と捉え方を明確に把握し、未来の自分と共有したい。
目的はそれだけ。
他の誰にこの文章を読まれても構わない。

 

5月末にパートナーが一時帰国する話はずいぶん前からあった。

一番の理由は親友の結婚式がありスピーチの大役を頼まれているからだけど、あとから私の親戚の結婚式も行うことが分かり、去年日本に置いてきたバイクのメンテがあったり、全く操作できなくなってしまった銀行口座をなんとかする必要があったり、日本に帰るべき理由はいくらでも出てきた。

当然一緒に来るかと聞かれて、私は断った。

第一には家族に対する複雑な気持ちがまだ整理できていなくて、まだ距離をとっておいたほうがよい気がしたのと、第二には本当にお金がなかったから。

 

パートナーの出国日が1週間後に迫ったころ、夜中にふと目が覚めるようになった。

尿意を覚えて起きるようなふとした自然な目覚めで、でも起きて真っ先に感じるのは不安や緊張だった。

怖い夢を見た直後みたいな感じ。実際そんなもんは見ていないので、その不安の理由は検討もつかない。もしかしたらずっと私と一緒にいたのかもしれない。意識が戻ったとき、不安だけが引っ込むのに遅れた、みたいな。何を言ってるんだか。

とにかく数日間ほど変な感じだった。

そしてパートナーは私の誕生日の前日に旅立った。どうしようもない偶然による最低のタイミングだよね。

でももっと最低なのはここから。

私たちはもうすぐ今のアパートを出なくちゃいけなくて、ここ数ヶ月ほど必死に家探しをしていた。

まあまあ希望の範囲といえる物件から入居可の連絡が来たのはフライトの前日。
一週間後に入居できるならっていいですよっていう内容だった。
ベルリンの家探しの倍率はえげつないので、即答で入りますって伝えた。

今の家の退去日は3週間後に迫っていたから、この時点で半月分両方の家の家賃が発生することが確定。

ドイツ語での慣れない契約書のチェックと、初回の振り込み、会社を選んで電気を引く手続き、Wi-Fiの契約、家具がなにもないのでその手配、家の引き渡しの立ち会い&交渉、引っ越し準備…。

 

いろんなものに忙殺されストレスフルだったけど、一番堪えたのはお金のことだった。

重複分の家賃と敷金のとりあえず1/3を振り込んだら銀行の残高が1800€になった。
来月には当月の家賃、残り2/3のデポジットの合計の約4000€を振り込まないといけない。

その間に冷蔵庫や洗濯機を調達しないといけない。鍋も食器もなにもない。

どこからどう考えてもマイナス。どうやっても払えそうにない。
どうすんのこの状況。でもこうなりそうなことは分かっていた。

分かっていてパートナーは帰国した。当面のお金より、親友の結婚式のほうが大事だから。
お金はあとで稼いだらいい、と。

 

彼はそうできるだろうと思う。でも私自身のことについてはそうは思わない。
だから私だけ帰らなかった。

何社もで働いたあとで絶望的に会社員としての仕事ができないことがわかり、今はカフェのバイトで落ち着いている。
仕事でキャルアを作って稼いでいくという自信がまるで持てない。

だから最低賃金のパートタイムが私の稼げるお金。休んだらその分の給料はもちろんない。

彼のようにあとでたくさん稼げばいいということはできなくて、私は自分のこの資金繰りをよく自覚しているから到底日本に行くなんて言えなかった。

後悔もなかった。電話を取るまでは。

 

親戚の結婚式の最中に私に電話をつないでくれようとしたらしく、出たら賑やかな声が聞こえてきた。

声だけで誰か分かる。楽しそうなガヤガヤ。あの雰囲気を知っている。私がかつて所属していて、今もそこにいるべきだった場所。

そういうものが電話口から流れてきて、私は声を失った。

泣いていた。それから悔しくなった。

 

パートナーは友人の結婚式に参加し旧友に囲まれながら何次会にも出席して大いに楽しんでいた。
今日は私の家族と祝いの席にいる。

友情と家族を大事にする感じの良い彼の人生は豊かなものになるだろう。
歳をとってもいつまでも人に囲まれて、人々が彼を助けてくれるだろう。

 

方や私は、最低賃金のバイトのために一人で残り、残高の計算で胃をキリキリさせ、引っ越しへの不安を募らせてる。契約書の内容は適切か、あとで膨大な補修費を請求されないために入居時にきちんと確認することは、予算ほぼ0の中でどうやって生活必需品を揃えるか。。

なんで私の人生だけこんな何だろう。

いつもひとりで踏ん張ろうとして神経をピリピリとがらせて、誰のことも信用できなくて。

家族と離れる冷酷な決断をし意地を張って帰国せず、友人の結婚式と自分の金を冷静に天秤にかけるような人間で、自ら進んで孤立を選んでいる気がする。

でも生活を共にするパートナーとして、こういう状況ってほんとにどうなのかと思う。

助け合って生きてきたつもりだったけど、お財布を最初から分けておけばこんな感情を味わう必要もなかったのかな。そうかもしれないな。

 

この価値観の差、考え方の大きな違い、それゆえの人生の差の開きが辛い。

 

 

ぐちゃぐちゃな感情を腹に抱えたまま、なんとか外にでるために化粧をする。

その間にもさっき途中で切った結婚式に出席中のパートナーからの電話がずっと鳴っている。

私はそれを取ることができない。

真っ赤な縁をして鏡の中からにらみ返す目を、自分で美しいと思った。