日常で感じたこと

トランスジェンダーの人々と日本社会

※反対派の意見や事例も記事内には含めますが、結論としてトランス女性の権利を全面的に支持します※

ここ数日、日本語のTwitter上でトランスジェンダーの人は男性用と女性用のどちらのトイレや温泉を使うべきなのかということが注目を集めている。

私が見かけた範囲では、「トランスジェンダー女性は女子トイレを使うべきではない。なぜならシスジェンダーの女性に危害を加えるかもしれないから。」という主張が男女問わず、というかむしろ女性側から多く上がっているように見えて、それに対して当事者+アライ(連帯者)が「それは差別的で排他的な考えである」と反論しているのが大きな流れ。

 

数年前にハリーポッターの作者J・K・ローリングさんの発言が物議を醸したときの英語圏の議論が、数年後の日本でより限定的な場面の例で噴出しているように感じる。

彼女の発言が炎上したのは、暗に「従来の『女性』という言葉にはトランス女性は含まれない」(月経のない女性は女性ではない)という意見を示したから。

これに対して英語圏ではすさまじい量の議論が飛び交い、映画の出演者らも積極的に意見を出した。

多くはJ・K・ローリングさんの意見に反対するもので、中でもハリー役のダニエル・ラドクリフさんのコメントは反対しつつも作品を守る思慮に満ちた素晴らしいもので、原作の大ファンの私は救われた気持ちになった。

2020年6月11日 BBC NEWS JAPAN
ハリポタ作者、トランスジェンダーめぐる発言で物議 映画出演者も批判

ただ私がこのとき「救われた気持ち」になったのは、あんな素晴らしい世界観を生み出したローリングさんが実は差別的な思想を秘めていたことがショックだったからではなく、あまりに彼女が世界中から叩かれているから彼女の作品を愛している私までなにか悪いことをしているような気がしていたからだ。

つまり私はこのとき、彼女の発言のどのあたりがどの程度差別的であるのかがよく理解できていなかった。彼女は直接的な言葉でトランス女性を非難していた訳ではないし、なんならちょっと冗談めかしてもいる。こんなに大反乱が起きるほどのことなのだろうか、と困惑していた。

 

今回の騒動が持ち上がったときも、私は自分の意見がよくわからなかった。

反対している人たちがいうには、

・女湯に性転換を受けていない(男性器を持つ)人が「自分は女性だ」と主張して入ってきたらどうするのか

・その人の主張をすべて信じて女湯に案内することはできない

・人気のない女子トイレで鉢合わせ、シスジェンダー女性のほうが身の危険を感じたらどうするのか

主にシスジェンダー(心と体の性別が一致している)女性が受けるかもしれない被害を想定している。

確かにこれは大問題なような気がする。「自分は女性だ」と信じているならそれを尊重したいが、その結果ほかの人になにか危害を与えるようなことがあってはいけない。

 

ただ、私はこの人たちのいう状況をよく想像できない。

私が知っているトランス女性、よく練られ配慮されて作られた良作の映画の中で見るトランス女性は、自分の身体を受け入れることに戸惑いを感じていたり、葛藤や苦悩を感じていたり、周囲からの差別的な視線を恐れていたりする人々だった。

そして誰よりも女の人らしい振る舞いをしたりする。

(ここで私が「女らしい」と言いたいのは、脱いだコートをきちんとたたんで腕にかけることや、細部までおしゃれに気を遣うこと、がさつなことを嫌うこと、男性的な有害さをどこまでも嫌っているように見えるということ。)

私の知っている(と思っている)トランス女性と、反対派の世間が恐れるトランス女性に対する印象がまるで一致しないのだ。

そこに違和感を覚えたし、私の知人がこの議論の一部始終をみたらとても傷つくだろうと思った。

なぜならあの子は絶対にそんなことをしないから。

Twitterで私もこの議論に参加しようかどうか悩みながらうろうろしていて、とても納得できるある方の発言にであったので、こちらで紹介しようと思う。

※この騒動の中、普段からLGBTQに関心を寄せて発信もしている女優の橋本愛さんが、トランス女性の女子トイレの使用についてストーリーで疑問を提示。フォロワーからの指摘が相次ぎ、翌日には謝罪と勉強になったという前向きな変化を見せる投稿をした。彼女は前々からたくさんのクィアなひとたちに支持されていて、今回のことでもその支持は減らないと思う。影響力のある女優が一緒に勉強して、寄り添ってくれる姿勢が本当に素晴らしい。

まさに!私はRinさんの意見に同意します。

そして改めて思うのは日本人のシス女性からこんなにも反対の意見が多いのは、これまであまりにも守られてこられなかったからではないか、と。

私たちは学生のうちから、痴漢や変質者や暴力的なAVやそれを信じているような男性たち、その他ありとあらゆる性的な被害を受けるリスクのある社会に生きている。

ローリングさんもDVや性的被害を告白している。

反対意見は、被害を受けたの当事者やトラウマがある女性たちの、無視してはいけない恐れの声だと思う。

 

 

この記事に含めるか迷ったのだけれど、最近、反対派の人たちがまさに恐れているような事態がスコットランドで起きてしまってニュースになっていた。

スコットランドで2人の女性を性的暴行したとして有罪判決を受けた男性が、その後性別を女性に変更し、女子刑務所に送られた。

2023年02月09日 NEWSWEEK日本版

「性別変更簡易化」スコットランドでレイプ犯が女性に性別変更

この記事の中では、トランスジェンダーの権利擁護のため性別変更を容易にする法案を推し進めてきた「進歩的左派」の政治家・活動家のことをボロクソ貶されている。

 

 

このとんでもない事件を見るとほらやっぱりねって、思う人もいると思う。

でもこれはまさにRinさんが指摘している「変質者」のタイプなのではないかと推測して、トランス女性の全体像にするべきでは絶対にないのよね。

性別の変更には医師や専門機関の元で慎重なステップを積み重ねる必要がありそう。

それと同時に、恐怖を感じている反対派の女性たちには、本当のトランス女性を知って欲しいと思う。

 

個人の尊重と、集団生活の中での平和の両立を目指して、そのバランスを探っていくべきなんだろうな。

私は、自分の友人に自分らしく生きて尊重されてほしい。

だってそれは誰にとっても当たり前のことだから。

そういう現実を一緒に作っていくことを約束するよ。

 

 


あまり関係のない追記

J・K・ローリングさんについては、最近になってトランスジェンダーの問題以外にも、作品内に差別が多数見られるという指摘が相次いでいる。

原作の大ファンとして、言われてみればそうかなと思うこともあるけれど、時代の流れもあるし、原作者一個人が想像できる範囲というのもあると思っていて、そのあたりについて検証しつつ別の記事を書きたい。