先日、フェミニズムなんてと思っていた私が、とうとう手を伸ばした先で自分の分身のような物語たちに出会った話を書いた。
その中でもダントツに心を掴まれたのはロクサーヌ・ゲイの本たち。
アメリカではすでに大人気な彼女だけど、日本ではそれほど浸透していなさそうなので、ぜひこのブログで紹介したい。
ロクサーヌ・ゲイのプロフィール
1974年10月15日生まれ。ネブラスカ州出身。ハイチ系アメリカ人。
作家、教授、編集者、社会的コメンテーター。
エッセイ集『Bad Feminist』(2014年)はニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーに選ばれている。
また、教授としては2018年よりイェール大学の客員教授を勤める。
文筆業の傍ら、テレビや映画のプロジェクトにも積極的に取り組んでいる。
参考:ウィキペディア、オフィシャルサイト(載っている彼女の写真がすてき)、彼女の著作物
飢える私 ままならない身体と心
ロクサーヌ・ゲイのことを知るために欠かせないのがこの1冊だと思う。
<概要>
レイプサバイバーでもあるロクサーヌ・ゲイの半生を綴った自伝。
12歳のとき、憧れていた男の子から誘われ、森の中で彼女は集団暴行にあった。
その事実を誰にも言えなかった彼女にできるのは、自分の身を守るために食べ続けることだけだった。
やがて体重は577ポンド(約261キログラム)に達し、両親も何かがあったのではと心配するが、彼女はどうしても打ち明けることができなかった。
レイプの傷は身体だけでなく、彼女の学生生活にも大きく影響する。
移動を繰り返し、何人かの人と付き合い、彼女は少しずつキャリアを築き始める。
深い傷を負い、自分の身体との向き合い方にも苦しみ、そして再生へと向かっていた軌跡を残してくれているこの本の意義は計り知れないと思う。
印象的な言葉がいくつかあったので、いくつか紹介していきたい。
私は痛みについてはよく知りすぎていたけれど、ひとりの女の子がどれだけ苦しむことができるのか時分が体験するまではまだ知らなかった。 (「飢える私」P17)
原作が出版されたのが2017年なので、計算すると彼女がだいたい43歳のときだった。
上記の彼女のこの言葉どおり、12歳から先の長い長い年月を、どれだけ苦しみながら生きてきたか少しは分かるかも知れない。
12歳という人生の早い時期で被害にあうというのは、その後の人生の重要な意思決定を傷ついたまま行わなくてはならないということだ。
彼女は被害を誰にも言うことが出来ず、彼女は自分の身体を強固なものにするため、食べ続けた。
私は自分自身にこれを行った。これは私の間違いであり私の責任。私はそう自分に言い聞かせているけど、同時にこの体についての責任を自分ひとりで背負ってはいけないとも思う。 (「飢える私」P17)
この言葉を読んだとき、自分にもまさに同じことが言えると思った。
抜毛しているのは間違いなく自分自身で、責任も私にある。でもこれは私だけが背負うべきものではないと。 (だからこのブログを書いているんだと思う)。
暴行を受けたあとも彼女の人生は続く。
何重の苦しみの中でも彼女はユーモアと知性を失わず、彼女のままで成功していることを私は本当に嬉しく思う。
こういう勇気ある個人の物語ひとつひとつが、フェミニズムの真髄なのではないかと思った。
最後に、気に入ったフレーズをもう一つ。
私は、この私が入っている体で美しくなりたい。 (「飢える私」P161)
これ以上の共感はない。
この身体で美しくなろう。強くなろう。
一人ではないって思わせてくれてありがとう。
魂が救われた気がする。
バッド・フェミニスト
彼女の著作の中ではこれが一番有名じゃないかな?
内容は、ラップに含まれるノリが良くて暴力的な歌詞について、アメリカのTVシリーズに出てくる表現について、その他について、日常生活をどうやってフェミニズムと両立させるかの実用的な手引書。もしくはHow to be a human。
私もアメリカのドラマや音楽はかなり見聞きしているほうだけど、正直知らない元ネタが多すぎてついていくのが難しく感じた。
その点TEDのトークは元ネタから離れて、彼女の主張がわかりやすいのでこちらがおすすめ。
(日本語字幕つき!やったね!)
むずかしい女たち
こちらは彩り豊かなフィクションの短編集。
出てくる女性たちには共通して暴力の跡が伺える。
現代アメリカの生活が描かれているものが多く、雰囲気としてはインディペンデント映画のような心地よさがある。
私はなんとなくこの映画を思い出した。この小説の雰囲気に似ているし、私は見るたびに癒やされるのでおすすめしたい。
人間の心身って複雑な方程式を持っているみたい。
どこか見えない部分が傷つくと、時間を経て思いもよらぬ形でその傷が現れる。
これは人間の真理の一つだというような気さえしていて、ロクサーヌ・ゲイと一部の人たちはすでにそれを知っている。
もっとたくさんの人に気がついてほしい。
女性も、子供も、かつては子供だった人も、男性も、余生がたくさんある人もそうではない人も。
深い苦しみや悲しみを一人で抱えたままでいると、いつか破綻してしまうかもしれない。そうなる前に。